丸太町東洋亭
近くに「丸太町東洋亭」という美味しい洋食屋さんがある。
「洋食屋」といっても大正6年創業の老舗レストランで、石炭の火力を活かしたこだわりの味、歴史を感じさせる落ち着いた雰囲気の内装、気さく且つ気の効いた接客態度など、どれをとっても「一流」の店である。
ここで食事をすると味はもちろんだが、随所に”プロフェッショナル”を感じることができる。
例えばオーダーを取る際、「オーダーシート」を持って来ない。
こちらの顔を見ながらメモを取らずに注文を聞き、そして確実に内容を覚えて正しい料理を運んでくれる。
これはまさしく「プロ」のなせるわざである。
2、3品の注文なら簡単に覚えられるかもしれないが、先日の結婚記念日に私たちが訪れた際は大人3名子供2名の計5名。
それぞれが勝手な注文をし、パン・ライスの組み合わせもバラバラ、飲み物ももちろん頼んだ。
オーナー夫人であるYさんは私たちがメニューを口に出すたびに目を見てしっかりと受け答えし、最後に注文内容を確認して軽やかに厨房に消えた。
そして数分後…
温めたお皿とパン・ライスが運ばれ、続いてアツアツのオニオングラタン・スープなど、頼んだものが程よい温度を保って運ばれてきた。
オーダーを取る際、下を向いてメモをとらずにお客様と向き合ってしっかりコミュニケーションを取る―
これは東洋亭さんのような店にとっては当たり前のことなのかもしれないが、普通の店ではできそうでなかなかできないことである。
私は初めてこの店を訪れた時、まずこの点にとても感動した。
また、丸太町東洋亭ではとてもゆったりとした空気を感じる。
何故か?
広い空間に6テーブルしかないからか?
料理の運ばれてくるタイミングがゆっくりとしていて、程よいスピードで食が進むからか?
理由はいろいろ考えられるがその一つが先日解き明かされた。
それは「夜の食事の時間には最大6組しか入らず、また時間制限もない」ことである。
すなわち何時からの予約で何人であろうと1日にテーブル数以上の予約は受けないし、6時に店に入って10時までいても構わないのである。
オーナー夫人のYさん曰く「お客様にゆっくりと食事を楽しんでもらいたいから」だそうだ。
例えば6時に予約で3テーブル埋まっていたとする。
7時から更に予約で3テーブル埋まるとしても、テーブルが全て埋まっているのは7時からの1時間くらいのことで、しかも4人掛けのテーブルが4人組で全て埋まることはまずありえないので、店内が混み合っているような感じにはならない。
まぁ仮に6テーブル全てが同じ時間帯埋まっていたとしても、店内が広々としているので気にならないだろうが…。
テーブルが空くのを入口で待っているようなお客もいないので、非常にゆったりとした時間・空間を味わえる。
食事をしている際、混んできて入口で待っているような人が視界に入ったら何となく気ぜわしく、早く席を立たないといけないような気がするので、こうした店側のちょっとした配慮(でも店にとっては採算が悪いだろう)がとても有りがたい。
とにかくさりげなく、いろいろな気配りの行き届いたレストランなのだ。
さすが老舗!!
料理のお味の方ももちろん文句のつけようのない「プロの味」である。
どうなふうに美味しいかは言葉で十分に表わす自信がないので控えるが、石炭ストーブで長い月日をかけて煮込んだデミグラスソース、とろけるようなスープやシチューの味…
あぁ、プロフェッショナル!
美味しいものを出す店はいっぱいあるが、おこがましいことを言えば頑張ればできそうな美味しさと、どんなに頑張っても作り出せない美味しさとがあると思う。
丸太町東洋亭は無論後者だ。
…しかしマネできない味だと思えばますますマネしたくなるのが人情。
後日デミグラスソースを作った私であるが見事沈没した。
それなりに美味しく出来ても所詮家庭の味。
「完敗だ」
―30年ほど修行が足りないことを痛感した。
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