祇園祭宵山の16日、友人のMさんと共にあるお茶会に出かけた。
この「お茶会」、正式には「献茶祭」といい、祇園祭期間中に多数執り行われる神事の一つである。
宵山の16日、八坂神社に全国から茶道関係者が集まって行われるのだが、神社外でも周辺に茶席が設けられ、そこには私のような茶道の「サ」の字も知らないシロウトも参加することができる。
と言ってもチケットを持っていないと参加することはできないので誰でも行けるわけではない。
そしてそのチケットはぴあで売っているわけではない。
どういうルートでお茶券が回っているのかは知らないが、なかなか手に入らないものなのだ。
とにかくそんな貴重なお茶会にMさんのおかげで参加できることになり、7月に入って祇園祭の「コンチキチン」という音が聞こえてくるようになってから、ワクワク・ソワソワの日々を送っていた。
さて当日―
祇園へタクシーで駆けつけた私たち。
美濃幸さんと万亭(一力茶屋)さんをはしごするため、9時前から列に並んだ。
お茶会なんて初めての私はすっかり「おのぼりさん」の気分。
そそうのないようにせねば…
しかし朝出掛ける直前に慌てていてドアノブに着物の袖をひっかけて破いてしまい、サザエさんのようなスタートを切ってしまった私、本当に大丈夫だろうか…?
心の奥底に眠っていた不安が神に通じたのだろうか、神は荒療治に出た。
順番が回ってきて通された茶席で空いていたのは正客席だったのだ。
(…と言っても実は「正客」という言葉を知ったのすらその日が初めて。)
50人ほど入れる茶席で前の人から奥に座ってしまい、なぜか不思議に空いている空間があった。
子供の保育園の講演会などに行って後ろの方の席からみんなが座ってしまい、最前列の講師の目の前の席だけが空いている―ちょうどそんな状態だった。
Mさん、私…と座ったのに私の隣の空間に来るべき次の人が他のところに行ってしまい、隣は空いたまま。
すると主催者側の人が「そちらの方たち(私たち)、詰めてください」と促した。
友人Mさん(彼女は茶道のたしなみがある)は「エ~ッ!ちょ…ちょっと…誰か他の人座ってよ~」と慌てているが、正客席の意味を知らない私には怖いものはない。
無知は強い…。
結局覚悟を決めたMさんが、お茶会初体験の私と入れ替わって正客席に座ってくれた。
ちなみに「正客席」とは―
『一番の上座。亭主とのやり取りをこなせるだけの茶道の知識を持ち、趣向を敏感に察知するセンスを要求される席。正客の隣が次客。正客に準ずる賓客』(伊藤園HP「お茶百科」より)
だそうだ。
2軒目のお茶席では正客席に最初に入った50代と思われる上品な男性が正客席に座っており、お茶を点てる主人と和やかに茶道具の話などをしながら場の雰囲気を盛り上げていた。
ナルホド。
「正客」とはこういう気の利いた会話のできる人でなくてはならないのか…。
いや話を元に戻そう。
1軒目のお茶会で「正客席」「次客席」についた私たちの前に貝の盛られた籠が運ばれてきた。
これは…ハマグリ?
???の私に頼りになるMさんが小声で教えてくれた。
「これは『浜土産(はまづと)』というお菓子。こうやってここから割って(と言いながら貝をパカッと割る)…取った殻をスプーンにして中身をすくってひと口で食べる」
貝を開けた中身は琥珀色の寒天だった。
あぁ涼しそう。
こぼさないようにひと口で食べないとね…
緊張しつつ、Mさんの真似をして無事に食べ終え、殻を懐紙に包んでそっと後ろに置いた。
とりあえず第一関門突破。
そしていよいよMさんの前にお点前が運ばれてきた。
彼女は優雅な動きでお茶を飲み、つつがなく飲み終えた。
Mさんが飲み終えると奥から順ぐりにお茶が運ばれてきた。
次は私!
と思いきや、次のお茶は私を素通りして隣の女性へ運ばれた。
え?
そんなぁ~。一つとばしなんてフェイントやん。
私がお茶会初体験なことを見抜いたとしたらアッパレ!
でもそんなわけないやんなぁ。なんで??
私の動揺を察したのかMさんがまたも小声で教えてくれた。
「今、点ててくれてはるよ。」
あぁ、そうか。
正客と次客には主人直々が点てたお茶を運んでくれるのか―
安心した私はその後運ばれてきたお茶をじっくりと味わうことができた。
茶席の客全員がお茶を飲み干してお茶会は終了。
う~ん、ほどよい緊張感が心地いいなぁ…
普段緊張感のない生活をしている私にはお茶会独特の雰囲気がとても新鮮であり、不思議な空間に感じた。
お茶会は道具を愛でる場であるとか、会話を楽しむ場である、という意味はこういうことだったのか。
茶道具はもちろん、待合室の掛け軸や生け花、飾り物など一つ一つに意味があり、大のオトナがそれらの道具をネタに会話を楽しむ―何とも粋な大人の遊びではないか!
… … …
興奮気味のまま2軒をはしごして回り、そして興奮したまま帰宅した後、私のコーフンを更に高めるかのような大雨が降った。
なんというグッド・タイミング!!
私たちってむっちゃタイミングええやん!
神様、Mさま、ありがとう!!
と腕を振り回した途端―
「ビリッ!」
…朝、ドアノブにひっかけて応急処置をした着物の袖付け部が更に破けた。
興奮は一瞬にして冷めた。
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